敷島の数多い戦歴の中でも、もっとも有名なのは、横綱貴乃花とはじめて対戦し、二場所つづけて勝ったことでしょう。
初顔合わせは1998年三月場所四日目、敷島は前頭筆頭でした。貴乃花は左下手まわしを取り、右からも 抱えて上手に手をかけました(1)が、その間に敷島は右からかち上げ、素早く得意の右上手を引き(2)、相手の上手を切って寄って出て行きました(3)。 横綱は防戦一方、右から投げに行こうとしているうちに腰高となって上体が浮いてしまいました(4)。敷島は左差し手をかえし(5)、右上手を引きつけなが ら休まず攻めて(6)強烈に寄り切り(7)、貴乃花は脆くも土俵下に転落しました(8)。14秒1の勝負でした。初顔で初金星をあげた敷島は、「夢みたい ですね。いやもう信じられないです。」と語りました。
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つづく五月場所でも、前頭六枚目の敷島は十日目に貴乃花とふたたび対戦することになりました。「敷島が 見て立ち、左差し、右上手を狙った(1)が、貴乃花が左の差し手を返して封じ(2)、右を巻き替えてもろ差し(3)、敷島は両上手からきめ上げてこらえ (4)、積極的に寄り立て(5)、貴乃花が懸命にこらえる(6)ところ、左から小手投げを打つ(7)と、横綱がごろりと転がる(8)みじめな黒星、平幕を 相手に2連敗、敷島は先場所に続いて金星を挙げた。19秒3。」(「大相撲」1998年6月号)
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次の名古屋場所では、敷島は大関貴ノ浪と顔が合いました。これについては、次のようなメールをいただき
ました。「坪田です。貴乃花戦も凄かったけれど、貴ノ浪戦の下手投げというのも印象深いですね。あの日は緒方昇さんが解説でしたか。感に堪えたような驚き
の様子がそのまま声になっていたような記憶があります。平成10年
7月
7日目です。豪快な左下手投げで、確か白房下でしたか。そういえば敷島の場合は左四つ寄りの際の肩の使い方が巧かったはずなんですよ。その辺の極意が書か
れている文章はありませんでしょうかねぇ。」
肩の使い方というのは、実にいい指摘だと思いますが、これについての解説は今のところ見つかっていません。
(以下の写真の(5)およびその前後をよく見ると、納得できます。)この貴ノ浪戦に注目された坪田さんの炯眼には敬服します。なお、この取組についての各
誌の評は、次のようになっています。
「貴ノ浪は、左足から踏み込んで左差し、右から抱え込んで寄り立てた(1)。しかし、左差し、右上手を取った
敷島(2)が、土俵際を左へ回り込んで残し(3)、腰からグイグイ寄り進み(4)、右上手から捻り(5)、左下手投げの併せ技(6)(7)で快勝。貴ノ浪
は背中から横転した(8)。(12秒7)」(「相撲」1998年8月号)
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「敷島が頭で当たって素早く左四つ、互いに上手が取れなかったが、敷島が先に十分の体勢、貴ノ浪が強引に寄って
出たが、差し手を返してこらえ、腰を下ろして備えを固め、両まわしを引きつけて寄り、右上手からひねり、左からの下手投げで貴ノ浪を裏返しにした。12秒
7。」(「大相撲」1998年8月号)
「『敷島は強くなった』。大関貴ノ浪を下手投げで横転させた相撲を見て、だれもが、そう感じたに違いない。貴
ノ浪の体勢が悪かったわけではなかった。左上手を引き、右から抱える形は、むしろ大関にとっては勝ちパターン。だから、相手の左をきめながら、横づりのよ
うにして、前に出て行ったのも、当然だった。ところが、敷島は右上手を引くと力を出す。投げは左からだったが、右上手からの強い引きつけで、相手の腰を浮
かせながら、見事に決まった。上背があり、投げの打ち合いには自信を持つ貴ノ浪が投げ飛ばされたのだから、大関も驚いたことだろう。春、夏場所と貴乃花に
連勝。横綱の体調が不十分だったにせよ、これが自信になったことは想像に難くない。三役を張る日も、そう遠いことではなさそうだ。」(同)